本の虫

アクセスカウンタ

help リーダーに追加 RSS 伊坂幸太郎「魔王」(講談社)

<<   作成日時 : 2006/03/10 23:09   >>

トラックバック 5 / コメント 3

 伊坂幸太郎「魔王」(講談社)を読了。この作家は、常に精神のバランスがとれているというイメージがある。小説を書くときも、締め切りに追われて冷や汗を流したり、どこかに雲隠れをしたり、そんなことは決してないんじゃなかろうか。

 この作品は、きわめて近い未来の日本が舞台となっている。新しい政治リーダーの出現により国家主義の傾向が強まる中で、特殊な能力(?)を持った兄弟がかすかな抵抗を示していく。兄弟から見れば戦いを挑んでいるのだが、敵役の政治リーダーは兄弟の存在さえ知らないのだ。
 これだけ読むと何のことだか分からないかもしれないが、とにかく面白いので読んでみてほしい。

 ところで、私が作者に冒頭のような印象を持ったのは、作品を通す醒めた視線と作者の抽き出しの多さからだ。

 今の日本に漂う「新保守主義」的な傾向や、インターネット社会の「情報」の危うさなど、現代社会を的確に捉えた上で、シューベルトの歌曲や宮沢賢治の詩をうまく使ったり、ところどころに蘊蓄をちりばめたりして物語の効果を高めている。

 兄弟が武器とする特殊能力も、「偶然」で片づけられそうな「能力」なのだが、エピソードが積み重ねられるにしたがい、本当らしく思えてくる。
 そんな、思わず「あるある」とうなずいてしまう「うまさ」があるのだ。

 2月に読んだ開高健氏の「不器用さ」と比べると、とりわけその鮮やかさが目に付く。(もちろん、器用、不器用は作品の魅力とは関係ないのだが)

 これまでの作品を読んでみても、伊坂氏は、重いテーマを多彩なアイディアで軽く描いてしまうのが持ち味だ。しかし、私は、「イマ」の社会の危うさを長尺で書いてほしいとも思う。

 もっともっと大きな作家になってほしいと思っている。

設定テーマ

関連テーマ 一覧

月別リンク

トラックバック(5件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
魔王 / 伊坂 幸太郎
魔王伊坂 幸太郎 「腹話術」の能力を持つ安藤は、その力を武器に抗えない流れに立ち向かい、そして―「魔王」と「呼吸」の2編の連作になっています。えーと、私は「魔王」がより ...続きを見る
GOKURAKU Days
2006/03/13 14:49
魔王
魔王 伊坂 幸太郎 ...続きを見る
Book Review’S 〜本は成長の...
2006/04/25 08:02
魔王 伊坂幸太郎
魔王 ■やぎっちょ評価コメント ...続きを見る
"やぎっちょ"のベストブックde幸せ読書...
2006/05/20 16:42
『魔王』 伊坂幸太郎
「魔王」と聞いて思い浮かぶのは、 作中でも出てきたけれど、 中学だか高校高の音楽の教科書に乗ってた、 シューベルトの歌曲『魔王』。 ...続きを見る
*モナミ*
2006/08/05 15:22
魔王 [伊坂幸太郎]
魔王伊坂 幸太郎著 amazonでレビューを見る オンライン書店BK1でレビューをみる 未来にあるのは、青空なのか、荒野なのか。 世の中の流れに立ち向かおうとした、兄弟の物語。 政治家の映るテレビ画面の前で目を充血させ、必死に念を送る兄。山の中で一日中、.. ...続きを見る
玉葱の本棚
2006/10/04 00:48

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(3件)

内 容 ニックネーム/日時
TBありがとうございました。こちらからもさせていただきました。
私も伊坂氏には同じような期待感を抱いています。現段階では「巧さ」が前面に出ていると思いますが、今までの作品の中にある「種」をみる度に、もっと大きな作品をいつか書く人のような気がしています。
TRK
2006/03/13 14:57
TRKさん、こちらこそありがとうございます。
伊坂さんをご当地作家と紹介されているということは、同じ地域に住んでいるかも・・・
最近、瀬名さんや熊谷さん、恩田さんと続いていますね。
本の虫
2006/03/13 22:36
 モナミさん、トラックバックありがとうございます。
 不思議な味わいと軽快な印象のある伊坂氏の作品群の中で、異質の作品だと思っています。
 この世界が「気づかないうちにそうなってた」ようにならないでほしいというメッセージを感じます。
本の虫
2006/08/06 13:04

コメントする help

ニックネーム
本 文